もしもルイの悲願・前編





時は夕暮れ、街から徐々に人の波は消え辺りはシンと静まる頃。
とある一軒家の電球が灯る。なにやら今日も暇なよう。


==ジェスターのクエストショップ

キュー
「よっしゃー、これでアタシの上がりっと!」
キュピル
「え?・・・う、うわっ!!そんなばかな!!」
キュー
「にっひひひひ、お父さん弱いぜー。」

卓上に所狭しに並べられた駒。最近巷で流行っている戦術ボードゲームを二人は遊んでいた。

キュピル
「おっかしいなぁ・・。俺結構戦術ゲームは得意なはずだったんだが・・・。」
キュー
「お父さんの中で眠っている優性遺伝子がアタシの代で覚醒した。」
キュピル
「ショック受けてもいいか?」


その時、誰かが正面減からクエストショップに入ってきた。

キュピル
「お、いらっしゃい。・・・・って・・むむむ・・・?」

入ってきたのは二人の子供だった。二人とも水色の髪色であり一人は少女、もう一人は少年だった。
少女の髪はセミロングヘアーであり優しそうな目をしている。少年の方は若干目付きが鋭く髪も大分短めだ。
少年の服装は長いマントで身を包んでおり、防具らしき装備が見え隠れしている。一言で言えば王道的装備か。
逆に少女の方は何処かで見た事のある黒い肩掛けマントを見に着けており、二段のフリルがついたヒラヒラの色調の黒いスカートを履いている。
少年と違ってこっちは気合を入れて御洒落してきたって形だ。

少年
「・・・キュピル・・チルドレインか?」
キュピル
「いかにも、俺がそのキュピルだ。お二人さん今日は何の用事で来たのかな?」
キュー
「んー?迷子か?」
少年
「ちがうよ。」
少女
「今日は頼みたい事が・・・。」
キュピル
「(親が何か依頼を託すようにお使いさせたのだろうか?)」

少年が近づきキュピルに一通の手紙を渡す。
キュピルが手紙を受け取り執筆された文章を読み始める。
手紙を読み始めると同時に私室へと続く扉からルイがお茶を持って現れた。

ルイ
「こんにちは。・・・・わぁっ!可愛い!」

ルイがお茶を机の上に置き、少年少女の頭を優しく撫でる。
少女は嬉しそうに笑い少年は少し照れくさそうな表情をする。

ルイ
「何処から来たの?」
少女
「ナルビクだよ。」
ルイ
「まぁ。ってことはご近所ね。」
少年
「果たしてそうと言えるかな。」
ルイ
「・・ん?」
キュピル
「・・・・そ、そんな・・・まさ・・・か・・・いや・・・冗談・・だろ・・・。」


キュピルが腕を震わせながら手紙をもう一度読み直す。

ルイ
「・・・・。あ、二人とも今日は何しにここに来たのかな?依頼?」
少年
「ま、そういうことにはなるけど・・・。」
少女
「えっとね・・・。お母さん。ビックリしないでほしいんだけど・・・。」
ルイ
「・・・え?お母さん・・・?」

キューが一気にきな臭そうな表情をする。



キュピル
「ル、ルイ。・・・まず、おおおおお、お、お、お、お、お驚かないで聞いてくれ!
・・・・その二人の子供はな・・・・。・・・・未来からやってきた俺とルイの・・・子・・こここ・・・子供・・・。」

・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ルイ
「あぁ、何故か目眩が・・・。」
キュピル
「お、お、お、おおおいい!しっかりしろ!」
少女
「あぁ!!お母さん!!」
少年
「あぁ・・・やっぱりこうなるよな・・・。予想はしてたんだよ・・・予想は・・・。」

倒れるルイに群がる三人。それを遠巻きに眺めるキュー。

キュー
「・・・・。」






・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。





ジェスター
「拝啓 寒さの峠も越えー」
キュー
「早く本題言えー!」
ジェスター
「あー!人がせっかく読み上げようとしてるのにせかすー!!でも今日の私は寛大だからねー?許す!
でもこんな事滅多にないからねー?レアだよ!レア!!」
ファン
「早く読んでください。」

ジェスター
「あーーー!!今のファンの一言のせいで読む気が失せたーー!!全部ファンのせいーーー!!」

文句を言うジェスターを放置しディバンが手紙を奪って読み始める。
・・・しばらくして。

ディバン
「要約して言うぞ。・・・『今、俺達が住む時間軸の結末は破滅しかなく、未来を変えるためのキーはその子供。
時が来たら未来へ来てくれ。』・・・っということだ。意味分るか?」
ヘル
「全く。」
ディバン
「だろうな。俺もさっぱりわからん。」

ヘルが顎をさすって悩む。その本人達はと言うと・・・。

キュピル
「とりあえず・・・。自己紹介しようか。二人は何て名前なんだ?」

少年が一歩前に出て右手で拳を作り、前に突き出して名を言う。

少年
「俺の名前はワセ!」
キュピル
「ワセか。そっちは?」
少女
「シア。」
キュピル
「ワセとシアか。・・・二人とも父と母は知っているんだね?」
ワセ
「ああ、知ってるさ。父はキュピル。母はルイ。」
シア
「勿論、今私の目の前に居る二人の事だよ。」

キュピルとルイが顔を見合わせる。二人とも驚いた表情を見せているが途中からキュピルは苦笑し、ルイは照れ笑いする。

ファン
「恒例のDNA検査が終わりましたよ。」
キュピル
「いつ恒例化した。」

ファン
「お二人とも確かにキュピルさんとルイさんの子供で間違いありませんよ。」
テルミット
「それはつまり・・・。」
キュー
「アタシから見ると血は繋がってても家族じゃないってこと。」

キューが少し離れた所で不貞腐れながら言う。

キュピル
「おいおい、一体何不貞腐れているんだよ。キュー。」

キュピルがキューに近づく。頬を膨らませ不貞腐れた表情を見せながらキュピルの背中に回り飛びつき片手でビシバシキュピルの背中を叩く。

ワセ
「あのボサボサ髪の子は誰だ?血は繋がっているって言ってたが・・。」
ファン
「あの子の名前はキューと言います。父親は間違いなくキュピルさんですが母親が分りません。」
シア
「お母さん・・・えっと、ルイ・・じゃないの?」
ファン
「調べましたが違いました。」
シア
「ここにいる皆を調べて誰も違ったの?」
ファン
「全員は調べていませんが、男の人やジェスターさんを調べても意味がないでしょう。」
ワセ
「あの変わった服を着た女性は?」

ワセが遠くで眺めている輝月と琶月を指差す。

輝月
「む?」
ファン
「念のため調べさせて頂きましたが違いました。調べている時はヒヤヒヤしましたけど。」
ワセ
「んじゃ、誰なんだろうな・・・。」

キュピル
「いででででで!」
キュー
「がおー!」

キューがキュピルに噛みついたり叩いたりし攻撃がドンドンエスカレートしていってる。
琶月が助けに行くとキューがキュピルの背中からジャンプして逆に琶月に飛びつく。
突然キューが飛びついてきたためバランスが保てずそのまま後ろへ倒れる琶月。

琶月
「あんぎゃぁっ!!」
キュピル
「滅茶苦茶荒れているな。ちょっと心配だ。」

キューがムスッとしながら別の部屋に移動してしまった。
キュピルも心配してキューの後を追う。

ヘル
「キュピルさんの娘は一体何であんな荒れてんだ?」
シア
「え?」
ヘル
「・・・お前の事じゃねーよ。」
シア
「ご、ごめんなさい。」
テルミット
「ヘル、怖がってるからやめてあげて。」
ヘル
「ちっ、めんどいな・・。」

ルイがワセとシアに近づき、しゃがんで目線を合わせる。

ルイ
「へぇー・・・、二人とも未来で出会う私の子供・・・。ワセ君は凄くキュピルさんに似てるね。」
ワセ
「へへっ。」
ルイ
「シアちゃんの少し自信のなさそうな感じは昔の私っぽいね・・。」
シア
「そうなんだ。」
ルイ
「二人とも私かキュピルさんのどっちかに頼まれて過去にやってきたの?」
ワセ
「ん、まぁそうだな。」
ルイ
「その喋り方キュピルさんにそっくり。」
ワセ
「よく言われるよ。」

ワセが視線を逸らす。

ワセ
「・・・しかしびっくりしたなぁ・・。父にあんな娘がいたとは。キュー・・だっけか?
俺の居た世界にはあんな子供居なかったぞ。」
シア
「うん。」
ルイ
「え?そうなの?」
ディバン
「変な話だな。あれ程父に懐いた子が自らキュピルの元から離れるとは思えんしキュピルが突き離すようにも思えないな。」
テルミット
「二人は今から何年先の未来からやってきたのですか?」
ワセ
「んとだな。15年後だな。」
ファン
「15年後ですか。大分未来ですね。」

琶月がバッと起き上がりワセとシアに近づく。

琶月
「15年後!15年後の私はどうなっているかわかりますか!?出世していますか!?」
ワセ
「さぁ・・。俺の住んでいる世界じゃ父と母、あと俺達以外誰も住んでいなかったけどな。」
ヘル
「一斉解雇か?」
琶月
「あああああああああああああああああああああーーー!!
・・・・って、あれ?ファンさんとジェスターさんは?」
シア
「ん、いや居ないな。その二人も今日初対面だ。父から名前は聞いてたけどな。」
ジェスター
「えーーーーーーー!」

傍観を続けていたジェスターが不満の声を上げる。

ファン
「ますます不思議な状況ですね・・・。未来では一体何が・・・。」
ルイ
「うーん・・・。・・・あ、とりあえず夜ご飯にしましょう!今日はお二人の歓迎パーティもかねて!
ちょうど準備中でしたし。」
ジェスター
「出前ー!出前ー!」
ルイ
「ここまで準備していた事を知っててそれを言っていますか!?ジェスターさん!
・・・でも、皆さんの分も用意しないといけないなら出前を取らないと今日はちょっと食材が足りませんね・・。」
ジェスター
「いえーい。」
琶月
「あ、これはうざい。」


あんぎゃぁーーー!!




・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





キュピルがクエストショップの居間を通り抜け、各メンバーが使っている小さな部屋へ続く廊下へ出る。
その一番奥にあるキューの部屋へと足を運ぶ。

キュピル
「キュー?どうした?一体何が気に入らないんだ?」

ドアを軽くノックしてから部屋の中に入る。
神妙な顔をしながらキュピルの方を見つめる。

キュー
「あれ、早く追い返した方がいいよ。」
キュピル
「一体何を言っているんだ。・・・ははん、さてはルイと俺の子が来たから見捨てられるとでも思ったな?
そういうことだったら考えすぎだよ。いつもt・・」
キュー
「違う。・・・あの二人、何か怪しい事を考えている。」
キュピル
「それこそ考えすぎだ。大体そんな悪巧みした所で一体何に・・・。」
キュー
「・・・お父さんっていつもアタシの言う事あんまり信じないよね。」

キュピルが少し困った表情をする。

キュピル
「とは言ってもな・・。いきなりその台詞を信じるのは無理がある。だって証拠も何もない。どうせまたいつもの直感だろ?」
キュー
「そうだけどさー・・・。・・・なぁ、お父さん。今日は一緒に寝てくれるかー?」
キュピル
「別に構わないけど、そんなに心配なのか?らしくないな。」
キュー
「いいだろー、別に。こういう日があったって。」
キュピル
「はいはい。さて、皆の所に戻ろうぜ。」
キュー
「んー、もうちょいアタシここにいる。適当に後で戻るから。」
キュピル
「ん、そうか。夜ご飯になったらまた呼ぶからな。」
キュー
「うん。」

そう言うとキュピルはキューの部屋から出てリビングへと戻って行った。
・・・キューは適当な事を言ったのではなく、本当に不安に思っているのだがあまり気付いて貰えていないようだ。

キュー
「・・・・・。」



・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




その日の夜ご飯。ルイの手料理と出前が食卓に並び、どっちが美味しいかしょうもない味比べが始まった。

ジェスター
「出前ー。」
ヘル
「やっぱ出前だな。」
ルイ
「叩きつぶしますよ!!」
ヘル
「こ、こえぇ・・・。」

キュピル
「だ、だ、だ、大丈夫だ。ルイの手料理の方が美味しい。流石元メイド長。」
ルイ
「キュピルさん、声が震えていますよ?」
キュピル
「あばばばばばばばばばばば。」

輝月
「ワシはルイに一票入れるぞ?」
琶月
「私もルイさんに一票ー!」
ルイ
「ありがとうございます。」
テルミット
「出前の方が美味しく感じる人は添加物に舌が飼いならされているのかもしれませんよ。」
ジェスター
「えー!現実でもキュピルに飼われて舌も飼われてるのー?嫌だー!」
キュピル
「変な風に言うな・・・。」

このメンバーにイマイチまだ馴染めていないのかシアは時々場に合わせているのか笑ってくれるが
ワシは微妙に苦笑しているように見える。

キュピル
「(まぁ、手紙の内容を見ると多分未来へ戻る方法を持っているのだろう。急ぐ必要はないだろう。)」

それより問題なのはキューだ。一応食卓の席についてはいるのだがあまり会話は弾んでいない。

キュー
「ごちそう様。」
ジェスター
「あ、まだ出前とルイのご飯どっちが美味しいか聞いてないよ。」
キュー
「どっちでもいいと思うよ。」

そういうとキューはリビングから出て行き、自分の部屋へと戻ってしまった。

ヘル
「捻くれてるな。」
輝月
「?」
琶月
「あ、師匠。今何が起きているのかイマイチ分っていなさそうですねー。流石師匠。そう言う所師匠らs・・あ、ごめんなさい。」


ぎゃあああーー!!


その後、キューは戻ってくる事はなかった。



・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



妙な空気になってしまったが歓迎パーティは終わりルイとテルミットが後片付けし始める。
食器だけ台所に運び自室で寛ぐキュピル。その時、部屋の中にワセとシアが入ってきた。

キュピル
「お?」
シア
「私ちょっとキューちゃんとお話しようと思うんだけど・・。」
ワセ
「話ししてもいいか?」
キュピル
「大丈夫か?今気が立っているからあんまり話しかけない方がいいかもしれないぞ。」
ワセ
「話をしなければ解りあえない。」

キュピルが少し驚いた表情を見せる。そして。

キュピル
「良い事言ったな。まぁ、暴れたら俺の所に来ればいいよ。なんとかするから。」
シア
「うん!」

二人はキュピルの部屋を後にしキューの部屋へと向かった。
時刻は夜10時。ジェスターはもう眠りにつく頃の出来事だった。





・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ルイ
「それではお先に眠ります。おやすみなさい、キュピルさん。」
キュピル
「ああ、おやすみ。ルイ。」

ルイが自室へ入り就寝する。
もうクエストショップの人達も殆ど眠り、恐らく今起きているのはキュピルだけだろう。
時刻は夜1時。

キュピル
「(そういえばキューが来ないな。・・・ワセとシアも戻って来ない所を見ると誤解が打ち解けて
そのまま遊び疲れたかしてキューの部屋で寝ているんだろうな。)」

そう解釈し自室に入ってキュピルも眠りにつく。
ベッドの中に入り本格的に眠ろうとしたその時、ノックが鳴った。

キュピル
「ん?キューか?」

キュピルが上体を起こす。

キュピル
「鍵は開いてるよ。」
キュー
「あー、お父さん?アタシやっぱり自分の部屋で寝るから。それだけー。」
キュピル
「何だ。ワセとシアと話しはしたのか?」

ドア越しに会話をする。

キュー
「おー、したぜー。思ったより良い奴だった。」
キュピル
「ほらみろ、キューの勘違いだ。まぁ、なにはともあれ和解できてよかったよ。それじゃおやすみ。」
キュー
「おやすみ。」


・・・和解できてよかった。明日はもう悩む事はないだろう。
安堵しながら眠りにつくキュピル。



・・・・。

・・・・・・・・。


キュー
「・・・何でこんな事やらせるんだよー・・。」
ワセ
「こうしないと目的が果たせなくなるかもしれないからさ。」
シア
「早くも思惑に気付いていたみたいだったから・・・。悪く思わないでよ?これもお父さんとお母さんのためだから。」

ワセが体術でキューを拘束し続け、シアがナイフをキューに向け続けている。
叫べばグサリと一突きされ、ワセとシアが持っている不思議な魔法石を使ってすぐ未来へ帰ってしまうだろう。
・・叫ぶにしても叫ばないにしてもキューに取って良い事は何一つないが。

キュー
「(・・・お父さん・・・)」
ワセ
「よし、もう寝ていいぞ。」
キュー
「うっ。」

ワセが思いっきりキューの後ろ首を叩き気を失わせる。

ワセ
「埋めよう。」
シア
「埋めよう。」


二人がキューを抱えながら外へ出る。

・・・・ワセとシアの目的とは一体。



続く


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